~絆~ 私の好きな言葉。愛の絆、友との絆、家族の絆。人は誰しも何らかの”絆”を胸に生きている。そんな想いから生まれた1頭のサラブレッドが、人と馬、そして人と人とを”絆”で繋(つな)ぐ。本日の名馬烈伝はキズナ。彼が織りなす温かい物語。。
彼は2010年3月に生を受けた。青鹿毛の綺麗な身体で、幼い頃はやんちゃな一面を見せていたと言う。1年後の2011年3月に起きてしまった東日本大震災。その復興に向け一丸となり、人と人との繋がりの大切さを実感したオーナーらが「絆」の意味を込めて付けたられた名前。それが「キズナ」だった。
キズナの新馬戦と2戦目の黄菊賞は”名手”佐藤哲三が務めた。いずれも前評判に違わぬ強さで快勝した。しかし2012年11月24日の京都10Rの落馬事故により、佐藤は全身7カ所骨折の重傷を負ってしまう。これを受け、暮れのラジオNIKKEI杯から”天才”武豊が手綱を取る事となった。
武豊と佐藤哲三とは1学年違い。武が1歳年上だが、日頃から趣味の話をするなど、2人は公私ともに仲が良かった。名手と天才、2人の”絆”が一頭の馬の運命を変えてゆく。
武はキズナの騎乗の打診が来た時、快諾した。そしてキズナの背に初めて跨(またが)った時に確信したと言う「これはダービー勝てるかも」一流のトップジョッキーとなると馬の背中に跨った瞬間にその馬の潜在能力を見抜くという。まして”天才”武豊だ。数々の名馬に跨ってきた彼は、瞬時にキズナの底知れぬ能力に気付いたのだ。
そして、武は佐藤が入院している病室を訪れる。全身骨折、手すら自由に動かせない佐藤に「キズナでダービーを勝つ」と約束した。これに対し無二の親友、佐藤は感極まったと言う。そして、この友情が夢を現実にする。
武が初めて手綱を取った暮れのG3ラジオNIKKEI杯では、世代最強クラスのエピファネイアに競り負け3着に終わる。
翌年2013年緒戦、G2弥生賞。ここもまた有力馬エピファネイア、コディーノが参戦する中、展開はスローペース。最後方に位置したキズナは直線で追い込むも、前を捉えられずまさかの5着に終わった。
2度続けて期待を裏切ってしまった武。年間200勝をしていた頃の力は確かにもう無かった。しかし調教師もオーナーも武騎乗の続行を選択する。特にオーナーの前田はキズナの姉、ファレノプシスを桜花賞馬に導いた武の騎乗を忘れていなかったのだ。陣営は思い切って皐月賞を回避し、毎日杯、京都新聞杯という路線でダービーをめざす決断を下した。
3月、G3毎日杯。負ければ道は閉ざされる。1番人気に推されたキズナ。最後方で向かえた直線。絶望的な位置からキズナの末脚が一閃する。他馬が止まって見えるようだった。終わってみれば3馬身差の快勝。実況は言う『G1ロードに間に合いました!鞍上は武豊!佐藤哲三から武豊に絆は繋がりました!』
5月、G2京都新聞杯でも1番人気に推されたキズナ。レース中、終始最後方に待機する。そして最後の直線、外から一気に脚を伸ばす。『キズナ飛んできた!まとめて交わす!強い!キズナ!』間に合った。いざ日本ダービーへ、舞台は整った。
夢の祭典「第80回G1日本ダービー」ここでも1番人気はキズナだった。道中、後方3番手に位置取り、脚を溜めるキズナ。4コーナーを曲がり最後の直線『大外からキズナ!大外からキズナ!』鬼気迫る凄まじい末脚。ゴール手前でエピファネイアを鮮やかに差し切り勝利し、3歳馬の頂点に登り詰めた。その鮮烈で美しい勝ちっぷりに府中が揺れた。14万人の「ユタカ」コール。ゆっくりと歓喜を噛みしめるようにウイニングランを踏んだ天才は、右手を上げてその声援に応えた。何度も、何度も。
そして勝利後のインタビューで武はスタンドを埋めた14万人のファンに言葉を贈る『僕は帰ってきました!』絆によって繋がれたファンにとって最高のプレゼントだっただろう。
武は後にこう語る。「何回勝ってもうれしいけど、今年のダービーは僕の騎手人生の中でも大きなダービーだったと思う。それを勝ててよかった。人と人、人と馬と色々な絆の結果が出て良かった」
キズナはダービーの他に海外でもG2ニエル賞で勝利。続く凱旋門賞でも4着という輝かしい実績を残している。
生涯成績(7.1.2.4)
そして2015年9月キズナは右前繋部浅屈腱炎を発症し、惜しまれつつもターフを去った。
キズナ・・・人と馬が繋いだ夢のような物語は静かに終わりを告げた。
「絆」とは「糸」に「半」と書く。運命や繋がりの糸の半分づつを持つのが絆。そういう意味では人と馬は手綱で繋がっている。そして人と人も見えない”糸”で繋がっているのだ。
絆はヒトをつなぐ。
絆はアイをつなぐ。
キズナハユメヲツナグ。。
~完~
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